Little AngelPretty devil
      〜ルイヒル年の差パラレル

    “お花見は風流に?”
 

今年の春もなかなかに優柔不断だと言いますか、
いっそ底意地が悪いとでも言うものか。
ひな祭りが雪催いの寒さだった東に
まったくの全然負けてないぞということか。
西の地でも
“いつまでコートが要るのだ”と焦れるほどのいつまでも、
底冷えが去らぬ気候が続いており。
日本全土で見回してみても、
花粉症かなと看過していたら風邪だったという、
長っ尻な感冒系の“マスク族”がなかなか減らなかったり。
お母様がたにおかれましては、
寒いせいで水も冷たく、
洗い物にはついつい高温設定の湯を使い続けているんで、
指先や手の荒れが引かないわ光熱費はかかるわという、
地味だが微妙に大変な春だったりもしておいで。


  それでも、あのね?


一旦 ぎゅうって寒い期間が挟まってこそ、
その開花に勢いもつくという桜は、
今年は遅いんじゃあと危ぶまれた割に、
気がつけばあちこちで順当に咲いており。

 「イースターや花祭りに合わせて満開になるとは、
  結構 粋なんじゃね?」

 「そういう爺ィみたいな言い回し、
  ちみちゃいお前が言うと 違和感があるんだがな。」

言ってることは間違ってはないのだが、
小柄で華奢な、見るからにまだまだ子供。
それも、軽やかな癖のある金の髪に、
玻璃玉みたいな金茶の双眸をした、
日本人離れした色白の坊やが。
甘茶を仏様にかけるお祭りの話を持ち出し、
粋だねぇなんて言われてもなと。
こちらさんもまた、
言ってることは間違っちゃあいないのだが、

 「うっせぇょっ
 「…っ☆ 痛ってぇなぁ。」

ちょみっと目尻を吊り上げた金髪坊やに、
ぱこり、脛を蹴っ飛ばされた当家の坊っちゃまだったのへ。
支度を手掛けていた、もっと大人の皆様が、
こっそり苦笑するところまででワンセット…
というのが、こちらのお宅ではデフォになってる辺り。
(苦笑)

 「うあ、いー匂いだなぁ。」
 「お好きでしたでしょう?
  タラの唐揚げあんかけと、若鶏の照り焼きです。」

いつまでも寒くはあったれど、
それでも自然は元気に芽吹き、生育しておいでということか。
芝草にも緑色が増えつつある 葉柱さんチのお庭には、
なかなかいい枝振りの、名代の一本桜が植えられており。
それが今年も満開に近づいたので、
ご両親が後援者の方々を招いての園遊会もどきがある前にと、
当家の坊ちゃんと小さなお友達とで
小ぶりの花見と洒落込んだ…のだが。
適当なデリバリー・ランチを見繕い、
気軽にひょいと花ゴザでも敷こうかと構えていたのに、
メイドさんやら執事さんやら庭師の方々が、
長く座っていると冷えますよ、足だって疲れますよと言いつつ、
サササッと、
デッキチェアの親戚みたいなディレクターチェアだの、
折り畳み式のテーブルだのを出してくださり。
そうかと思や、
今日は珍しく暖かいですからと、
いかにもなカラフルなそれじゃあなかったものの、
渋いドンゴロスの陽よけのパラソルまで出されており。

 「どんごろすってなんだ?」
 「見て判らんか。」

これもコール天と同じほど古い言い方なんでしょかね。
コーヒー豆だのの移送用の袋なんかに使われる、
目の粗い、でも丈夫な麻布のことで、
労働者層が着ていた衣類も、
似たような素材の、丈夫だが粗末なものだったので、
麻などの雑服をそう呼ぶこともあるそうですし、
木綿のデニムなどの生地、
タンガリィも語源は同じだと聞いたことがあります。

 「じゃあサ、別珍
(べっちん)
  ベルベットとビロードとベロアはどう違うんだ?」
 「…お前、判ってて訊いとるだろう。」

ちなみに、
ビロードとベルベットは同じで、シルクやレーヨン製が主。
別珍とは木綿製のベルベットのことで綿ビロードとも言い、
うねのあるコーデュロイ(コール天)もこちらで、
天は、ビロードの和名“天鵞絨(てんがじゅう)”の天。
ビロードみたいな…という意味だろうと思われる。
ベロアはその両方とも製法からして違う別物で、
ベルベット(ビロード)は
2枚の生地の間にパイル糸を渡して織り上げたものを
完成後に2枚に剥がすよう、間の糸を切ってゆくそうで、
そうしてあの起毛を作るのに対し、
ベロアは最初から起毛織物として織り出したもののことだそうで。
とはいえ、起毛という質感は似ているし、
その筋の流通業界の人間ででもない限り、
厳密に区別する必要はないのでは?との声もありました。

 「…もーりんさん、本題。」

あ、すまんすまん。花見の話のはずだったのにね。
……って。誰が脱線させたんだ、大元は。(こらー)

 「何か、二人で花見って感じじゃねぇ
  立派なあつらえになっちまったな。」
 「そだなー。」

気がつけばお料理まで揃えられてて、
春の新もの、タケノコに山菜のあっさり煮から、
インゲン豆のゴマあえに、
グリーンアスパラも鮮やか、
新タマネギも甘い春野菜のソテー。
春キャベツのキッシュの黄色は菜の花畑みたいだし、
傍らにはスィーツも添えてあり、
キウイのエメラルドグリーンに、
苺の赤とマンゴーの橙も綺羅らかな、
プチタルトやらプチケーキがお花畑のようで、

 「なんならセナ坊とか呼ぶか?」

と、当家のお兄さんが言い出したものの、
携帯を出す仕草におっかぶせ、

 「平日だぜ?」
 「???」

それは判ってるが、とか、
その前に、お前らもまだ春休み中だろうがとか、
あちらはあちらで、ご家族でお出掛けなのかな?とか。
色々な項目が ぐるぐるんと
頭の中を巡ってるらしい葉柱だったのへ、

 「だから。」

ほれここへ止まれと、
トンボ相手のように
小さな人差し指を一丁前にピンと立てて見せた
妖一坊やが言うことにゃ。

 「進や桜庭と連れ立って
  同じようなことをトレーニング込みでやってんじゃね?」
 「おお。」

  トレーニングで誘うってのはジャリプロの入れ知恵だろうな。
  お、やっぱそう思うか、ルイもvv

穴場としていた上水場脇の桜の丘へは、
今年もセナも一緒という顔触れにて こそりと行ったが、
その折に、こっそりとそんな話をしていたそうで。

 「どこ行くかまでは訊いてねぇけどさ。
  王城大学も あのクソ広い敷地ン中に
  大きい桜が何本も植わってるって話だし。」

 「あー、そういやそんな話を聞いたなぁ。」

じゃあ邪魔してもなんだよなと、
苦笑半分、くつくつと微笑った葉柱だったりし。
今日は本当にいい日和で、
目映い陽射しはじっとしてると暑いくらいで、
陽よけが要るのも頷ける。
手入れのいいお庭には、
どこからかモンシロチョウがひらりら舞い来て、
何とものどかな風情であり。
昨日やその前という週末は
上野やお堀端や河川敷なんかの桜が やはり見ごろだったんでと、
新入社員の歓迎会もかねてのこと
大層な人出で賑わったらしいのだが、

 「凄んげぇ寒かったから、
  盛り上げにゃあしょうがないって順番だったらしいぞ。」

今朝のニュースで見たぞと、
坊やのお持たせ、お母様の自慢の五目いなりを取り分けながら、
一丁前に言ってのけ、

 「成人になりたてへ酒を無理強いすんのも問題だけどよ、
  俺は花見でバーベキューおっ始める奴の気が知れねえ。」

誰もがあの匂いが好きとは限らねぇんだし、
そもそもキャンプじゃねぇんだ、他所でやれやって思うよな、と。
いかにもご意見番でございますという
鹿爪らしいお顔になって言ってのける子悪魔様で。

 「…やっぱ若年寄だよな、お前。」

空威張りなんかじゃあない、
もしもホントに見かけたならば、
どんな嫌がらせを速攻で仕掛けるかも判ったもんじゃない、
困った方向へも有言実行な坊やなだけに、

 “いや、それでって
  公共の場への花見に行かねぇワケじゃねぇんだが。”

誰への言い訳でしょうか、総長さん。
(笑)
音楽も無しってのも何だからと、
爽やかな風には似合いの、大滝詠一あたりをBGMに
春休み明けからすぐにも始まる、
大学アメフトの春リーグへの展望なんぞを話しておれば、

 「……何か声しねぇ?」
 「ああ、キングだろ。」

世間様への謙遜か、そうは見えぬ仕立てになっちゃあいるが、
その実、広大な敷地の葉柱邸で。
庭の端と端なんて位置にいると、相手へ気づけぬこともザラだとか。
とはいえ、相手がわんこなら、
お気に入りの坊やが来てるぞと
そこはいい鼻で嗅ぎつけるのも容易かろうから、
遠いところから馳せ参じるのも珍しいことではないのだが、

 「いや、気のせいかステレオんなってるような。」
 「ああ、それはだな…。」

説明の途中から段々と
元気な吼え声が間近になって来て、

  あおん…っと

お元気なわんこのお声が、
ご本人と一緒に生け垣の上から飛び出して来たのだが。

 「わっ!」

気のせいではなかったその証し。
小さな坊やへ“いっせぇのせ”で飛びついたのは、
似たよな色合いのシェルティが、何と2頭だったものだから。

 「……重いぞ、お前ら。」
 「あ、そうだった。」

ご機嫌なわんこ2頭に飛びつかれ、
突き飛ばされるまでは至らなかったが、
一遍に抱えるのは限界らしい坊やを見かね。
ほれと手を貸してくれた葉柱のお兄さんが思い出したのが、

 「こっちはアイリッシュって言ってな。
  キングの息子なんだが、
  飼ってる親戚のご一家が、
  春からアメリカへ転勤って運びになったんだよな。」

生活に慣れるまでは家族も忙しくなるし、
構ってやれないだろうからってことで、
こちらへ預かることになったらしい。

 「男なのに出戻りかぁ。」
 「せめて“里帰り”って言ってやれ。」

やっぱり長いお顔にふさふさの毛並みが愛らしい、
小さめのコリーこと、シェルティくんにはさすがに通じていないか。
ふっさりした尾をはたはた振って、
遊ぼう遊ぼうと無邪気なばかり。
ああこのくらい屈託ない無邪気さんだったらねぇと、
誰かさんへ思わなくもないが、

 “でもなぁ…。”

もしも本当にそうだったなら。
この子とのこんなお付き合い、
始まりもしなかったのだろうなとも思えるワケで。

 「わあ、こら あいーん、くすぐったいってば。」
 「こらこら。どさくさに紛れてどういう名前で呼んどるか。」

遊べ攻撃にもみくちゃにされてる小さな坊や、
ひょ〜いっと高々抱え上げて救出してやり。
重たくなったよなとの実感つきで、
これからもよろしくななんて、
春の日の下、
こっそり思った総長さんだったそうでございます。





   〜Fine〜  12.04.09.


  *妖一坊やの花見に関する見解あれこれは、
   もーりんの私見もたっぷりです、すいません。

   ちなみに、日本独特の“花見”は、
   そもそもは奈良時代や平安時代に、
   貴族や朝廷が催した園遊の宴が始まりとされ。
   最初は梅や菖蒲、藤を観る集まりだったらしいが、
   平安の時代からは
   花と言えば“さくら”と成り代わったのに合わせ、
   花見といや桜…と定まったらしい。
   ほんの半月でいっせいに咲いていっせいに散るという、
   印象的で一種凄絶なありようが、
   日本人には殊の外 好まれたのだろうとのこと。

   やがて、そんな宴を戦国時代の武士が 模した。
   殊に豊臣秀吉の“醍醐の花見”が有名で、
   それが一般市民へまで広まるのは、
   八代将軍・吉宗が江戸のあちこちへ桜を植えさせ、
   春の宴を奨励したから…とされている。
   (この辺りは、
    某陰陽師さんの出て来るお話でさんざん書いて来たもんねぇ。)笑

  *今日はまた、気温も上がって、
   一気に春めいておりますねvv
   用心して肌着がいつものだったので、
   洗濯物を干し、分別ごみの入れ分けなんぞ
   ちょこちょこっとしていただけで
   朝っぱらからドッと汗をかいちゃいましたぞ。
   このまま安定してくれりゃあいんですが…。


 めーるふぉーむvv
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